テモダールの効果は ?

2005年に発表されたヨーロッパとカナダで行われた「膠芽腫」へのテモダールの臨床試験の結果です。 
573人の患者さんは放射線治療(60グレイ)のみと放射線治療(60グレイ)とテモゾロマイド(テモダール)を併用する群に振り分けられて治療されました。

追跡期間中央値28ヶ月の時点での全生存期間中央値は,放射線治療単独群が12.1ヶ月であったのに対して,テモゾロマイドを併用した群では14.6ヶ月でした。ちょっと寂しいのですが,テモゾロマイドを併用すると2.5ヶ月の生存期間の延長が得られています。放射線とテモゾロマイドの併用群での2年生存割合は26.5%で,放射線治療単独群では10.4%でした。


副作用としては7%の患者さんにグレード3-4の血液毒性が見られていますが,これはとても軽いものと評価できます。 

以上が、グレード4の高悪性度グリオーマである「膠芽腫」へのテモダールの効果です。
わずか、2.5ヶ月の生存期間の延長しかありません。 

「膠芽腫」の腫瘍細胞の中にMGMTという遺伝子があります。この遺伝子は化学療法の効果を消してしまう働きをするということで知られていました。MGMTという遺伝子のプロモーターの部分にメチル化がある膠芽腫をもつ患者さんの方が生命予後がよいことが判りました。プロモーターのメチル化がある膠芽腫に,放射線治療とテモゾロマイドを使った治療をすると,全生存期間の中央値は21.7ヶ月であったとのことです。ところがメチル化がないとテモゾロマイドを追加してもはっきりした効果がないようであるとも書かれています。この事実は,メチル化を調べることによってテモゾロマイドを投与した方が良いかどうかがあらかじめ判るということを示しています。 

では、「膠芽腫」とは違う疾患であるDIPGの場合はどうでしょうか。同じグレード4の高悪性度グリオーマではありますが、正確に有効性が示された例はあるのでしょうか。


小児の治療抵抗性悪性神経膠腫と脳幹部神経膠腫に対する第2相試験が欧州で行われました。200mg/m2を5日間連続投与したものですが,登録された55例において有効性は認められないと結論されました。さらに初発例のびまん性脳幹部膠腫29例(年齢中央値6歳)に対し放射線治療後に同様なテモゾロマイドの投与を行った報告では,生存期間中央値12ヶ月で全例が死亡して,テモゾロマイドが脳幹部神経膠腫の予後を改善することはないとされました。

テモゾロマイドは10年以上前から試されていますが,有効であったという研究結果はありません,無効であったという意見がほとんどです

逆にテモゾロマイドが放射線治療後の症状の悪化を早める可能性もあります。


・2005年の研究発表 (前述の例)
初発例のびまん性脳幹部膠腫29例(年齢中央値6歳)に対し放射線治療後に同様なテモゾロマイドの投与(200mg/m2を5日間連続投与)を行った報告では,生存期間中央値12ヶ月で全例が死亡しびまん性脳幹部神経膠腫の予後を改善することはできないとされました。

・2009年の研究発表
20人の子供が治療されたのですがテモゾロマイドの上乗せ効果はなく,放射線単独治療と比べて生命予後の改善はなかったとされました。でも詳しく読むと,1人の患者さんが病気の進行がなく4年以上生存しています。この患者さんが びまん性橋膠腫ではなくなにか他の腫瘍だったのかどうかは解りませんが,例外的に長期生存例があるのかもしれません。

・2011年の研究発表
62人の子どもが59.4Gyの放射線治療期間中にテモゾロマイド 90mg/m2を42日間投与されました。その後は4週にサイクルのテモゾロマイド維持療法です。1年無増悪生存割合 EFSは14%であり,テモゾロマイドを使用しなかった過去の成績の21.9%を下回りました。1年全生存割合は、それぞれ40%と32%でした。テモゾロマイドを使用したほうが再燃が早まるとも解釈されます。

・2014年の研究発表
15人のびまん性橋膠腫の子どもに放射線治療とテモゾロマイドの併用治療が行われました。テモゾロマイドの効果は無かったとのことです。

以上の研究報告から見て、テモダールは、DIPGに対して、単独でも初期放射線治療と併用しても、効果は期待できない薬剤ということが分かります。


しかし、このような世界的常識と裏腹に、日本の医師には、初期放射線治療に当然の如くテモダールを併用している者がいます。
このデメリットは、そんなに重くはないとはいえ、副作用の上乗せによるQOLの毀損と、再燃を早めてしまうかもしれない所にあります。 

また、再燃後の治療としてはどうかと言えば、正確な病理診断が行われないDIPGでは、効果がある可能性も全て否定することはできませんし、現実に僅かに効果が認められるケースもありますが、あまり積極的な意味は見いだせません。 

しかし、これには仕方ない面もあります。
公式的なDIPGの臨床研究が全く行われない日本の現状では、治療の選択肢は他には皆無です。個人的な経験を振り返っても、例え僅かであっても、その可能性に賭けたいと思うのは親御さんとしては当然です。そしてそれにより、少しでも希望を持てること自体には大きな意味はあります。(それがQOLの毀損と引き換えになるかもというジレンマを含んでいるとしても‥) 

しかし、そのような声を受け止める専門家である医師が、前述のような説明を全くせずに受け入れてしまっているという点は仕方ないとはいえ問題は無いのでしょうか? 

そして個人的に最大の罪だと感じるのは、テモダールを使用しないという、医学的に正しい選択をした親御さんの決断に対して疑心を持たせ、後々まで無用な苦悩に貶めてしまうケースがあるという事です。 
この罪は非常に重いです。

以上、色々述べましたが、個人的な結論はこうです。
テモダール、使用してもいいです。現状では仕方ないです。でも、その結果を、医療機関はしっかりデータとして蓄積して、次の治療に生かして欲しいと思います。 
やったらやりっぱなしが日本の場合多くはないですか?
放射線再照射等含め、子どもたちの勇気ある挑戦を、ちゃんとデータとして残しているのでしょうか? 
その一点が本当に気になります。 

その点では今後、JCCGが行うDIPG治療患者のレジストリデータの研究により、日本でのテモダールの使用についても正確なデータ結果が得られるようになれば、状況は少し変わってくるかもしれません。
 

(参考) 脳外科医 澤村豊のホームページ

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