第二回 「小児脳幹部グリオーマ」シンポジウムが開催されました。

2019年1月27日 3時16分16秒 (Sun)

2018年10月21日に開催された、第二回「小児脳幹部グリオーマ」シンポジウムの報告です。

●第二回開催の主旨

今回のシンポジウムでは、昨年の第一回からの議論の流れを引き継ぎ、「小児脳幹部グリオーマ」の「治療研究開発の現状及び課題」、そして闘病患者、並びに家族への医療的、精神的ケア等いわゆる「緩和ケアの在り方」について第一部、第二部に分けて議論を行いました。
専門家の講演、パネルディスカッションをもとに、そこで提議された各問題点について、広く来場された参加者の皆様にも考え、議論を巡らせていただく。その事によりこのDIPGという病気に関する理解を深めていくと同時に、登壇された専門家とともに「自分の事」として問題点を共有していただくことが出来ないだろうか・・・という目的で今回のブログラムを企画致しました。

 

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●シンポジウムの内容

冒頭、司会による開催の言葉の後、代表 高木よりの前回のお礼と今回の協力者、参加者へのお礼のご挨拶がありました。
次に衆議院議員 とかしき なおみ氏による開催への祝辞があり、登壇いただく専門家を代表して慈恵会医科大学病院の柳澤隆昭先生よりの挨拶、そしてその後に、昨年の第一回のシンポジウム内容の復習が国立成育医療研究センターの寺島慶太先生よりお話いただきました。



第一部「DIPGにおける日本の治療開発」
海外の研究の現状と国内において行なわれている研究についての講演を国内外、お二人の先生にお願いしました。

◎橋詰倫太郎先生講演
(ノースウェスタン大学医学部 脳神経外科・生化学分子遺伝学科 准教授) 
以下のようなテーマでの橋詰倫太郎先生によるビデオ収録による講演を行いました。
・海外でのDIPG治療研究
・薬剤開発に関わる基礎研究
・海外と日本の製薬企業におけるDIPG治療・研究開発の比較
・国際共同治験の推奨

主な内容を簡単に要約します。
◎海外では近年の遺伝子解析技術の飛躍的進歩により、DIPGにおいて「ヒストン蛋白」という分子設計に関わる遺伝子における特徴的な遺伝子変異が高い確率で発現している事が発見されるなど日々、研究が進んでいる。
それとともに、研究論文の増加や、新しい臨床試験が数多く立ち上がっている。
DIPGの特徴は遺伝子変異が少なく免疫療法が効きにくい。また、腫瘍細胞遺伝子の「不均一性」が著しく、腫瘍内の多様性が、一つの薬剤では効かない要因となっている。よって多剤併用が必要となってくるが、異なる薬品会社の利害に関わる。しかし、そうは言っていられない。従来の企業の利害を超えて一刻も早い治療の確率が望まれるという危機感により他剤併用の臨床試験を積極的に推進している研究者も多くなっている。
◎薬品を患部に届かせるには「血液関門」という直接血管から異物が脳内に侵入しないようにするバリアの存在をどうするかという問題がある。そこで血管を介さず、カテーテルを脳に挿入し、直接薬剤を患部に届けるCEDという技術の研究が進んでいる。
◎希少疾患であるDIPGは、臨床試験に参加できる患者数が少ない。世界各国が連携して参加していける形を作る事やデータの共有等協力していく事が必要。
◎そもそもこういった治療研究開発には莫大な資金が必要になる。欧米では民間の支援団体が大きな組織を構成しており、資金集めが活発に行なわれている。患者の子ども達が自らスポーツ会場などで募金を募るといった光景も少なくない。まさに単なる慈善といったレベルではなく、「がんとの闘い」といった位置づけで活動している。日本も見習うべきではないか。

欧米での非常にアクティブでかつ、しっかりと制度化、組織化された治療研究環境は、大変うらやましく感銘を受ける内容でした。
日本ではまだ、毎年の実際の患者数さえも正確に把握できていません。
しかし、その環境の根底には、「希少疾患」であることからくる、「製薬企業の利益の問題」があり、この病気に限らず、小児疾患に関わろうとする製薬会社が成人のそれらに比べて皆無という状況があると思います。
「市場原理」では解決できない場合は「国」に期待しますが、少子高齢化の中、多くの医療行政の課題や多種多様な難病がある中、予算は限られるでしょう。
ならば、欧米のような民間支援団体を立ち上げ「闘っていく」という事も考えなくてはなりませんが、それが成功するためには、国を動かす過程でも同様ですが、国民一般への啓蒙、啓発活動という事を一層推進しなければならないでしょう。この事は患者会組織としてもしっかり考えて行かなければならないと思います。

◎齋藤竜太先生講演
(東北大学脳神経外科 講師・病棟医長)
齋藤先生の講演は、はじめに脳腫瘍の外科治療がどういったものか、よくマスコミ等で「神の手」といわれるような限局性の脳腫瘍手術が報道されますが、それらと比べての悪性びまん性腫瘍の手術の困難さを実際の手術映像等も含め詳しく解説していただきました。
その後、外科治療に対する化学療法の有用性をお話しいただきました。橋詰先生の講演にあった「血液関門」の課題に対して、先生が現在、進められている、国内でのCED治療研究に関しての詳細を講義いただきました。
アメリカでの橋詰先生の研究にも一部関わってこられたということで、アメリカのような潤沢な研究環境にない国内の状況の中、マウス実験から始まった粘り強い研究の流れが語られました。その成果もあり、一部の脳腫瘍には著しい成果を上げているものもあります。DIPGへの治療に関しては、まだそれらに比べ成果といえる結果は出ていないが、確かに今後の可能性を感じられる治療法だと思いました。
国内の限られた条件の中での新規治療の研究開発は、決して不可能ではないという先生の言葉に、感銘を受けました。

◎バネルディスカッション
バネリスト
衆議院議員 とかしき なおみ氏
東北大学脳神経外科 齋藤 竜太先生
国立がんセンター 脳腫瘍連携研究分野 外来研究員 中野 嘉子先生
大阪総合医療センター 小児医療センター長 兼 副院長 原 純一先生
大原薬品工業株式会社 常務執行役員 研究開発本部長 早川 穣氏
厚生労働省 健康局・疾病対策課 がん対策推進官 丸山 慧氏
モデレーター
国立成育医療研究センター
小児がんセンター 脳神経腫瘍科 診療部長 寺島 慶太先生

お二人の講演内容を受け、6名のバネリストによるバネルディスカッションを行いました。主な議論の要旨を列記します。
日本の小児がんの薬品開発についての課題というテーマですが、そもそも日本での小児がんの薬の研究開発は皆無であるというお話から始まり、やはり、その理由として「市場原理」があると。希少疾患の薬剤を開発しても企業の利益にはならない。欧米の法律のような何らかのインセンティブを薬品会社に与えるべきであるという意見。
また、近年立ち上がったJCCDは問題意識を持った国内の専門家が集まり小児がん研究を行なって行くということで、医師・研究者のあいだで現状を何とか前進させようとしている動きがあることも語られました。
また、希少疾患という事もあり、貴重な腫瘍データの情報共有等の制度化の確立も大事である。
海外では多くの臨床試験が確かに行なわれているが、残念ながら現段階では、橋詰先生の講演の中で、リストアップされたような海外臨床試験での薬剤のどれもが効果らしい効果を上げていない。有望なものが、もし見つかれば、希少疾患とう点もあり、臨床試験は可能である。だが、現状では何も無い。
各研究者・施設の努力で何とか研究開発を進めているものもある。しかし、現状の制度のもとではなかなか困難であり、政治の力で何とかならないか。
それには国民が声を上げ周知、啓発・啓蒙を行っていくことが何より必要。国としても子どもの命に関わる事は「市場原理」にばかり任せていてはならないという事は分かっている。また、橋詰先生の講演から、患者側が資金を積極的に集めて行くという事も必要であるというお話等、専門家による現状の問題点が語られました。

そして、今回も当シンポジウム開催に多大な協力をしていただいた参議院議員 羽生田俊先生のご挨拶を挟み、第二部がスタートしました。

第二部「DIPGにおける緩和ケアの在り方」

◎岡本真弓氏講演
(患者会家族)
第二部では近年、がん療養において大きくクローズアップされている「緩和ケア」について、その在り方について考えて行きました。
まず、患者家族のお一人として、息子さんとの闘病を経験した岡本氏に患者とそのご家族の視点から闘病を振り返っていただくお話をしていただきました。
7歳で発症した涼央君は、14ヶ月という闘病期間をどのように生きたのか?
入院から看取りまで、多くの記録写真で構成された講演でした。
標準治療である放射線治療からの寛解、退院しての学校、サッカーチームの友人たちとの交流、ごきょうだいのお姉さんの気遣い、
この事態に、どう心の整理をつけたらいいのか分からない中、なお、涼央君のために最良の環境を用意しようと奔走するご両親と医療チーム。末期はかなりの量のステロイドを用いたためか、ムーンフェイスの状態にあったが、それでも気にせず涼央君と接してくれた友人達。
在宅医療実現には、優れた在宅訪問医師との出会いがあり、かなり充実したものだった事が分かります。
最期の最期まで生を求めて闘った涼央君・・・・
「涼央は不運だったが、決して不幸ではなかった・・・」母である岡本氏のこの言葉が多くの聴衆の心に響いたに違いありません。

◎パネルディスカッション
パネリスト
参議院議員 羽生田 俊氏
埼玉医科大学国際医療センター 精神腫瘍科 大西 秀樹先生
東京慈恵会医科大学付属病院 脳神経外科教授 柳澤 隆昭先生
医療法人財団はるたか会 理事長 前田 浩利先生
公益財団法人チャイルド・ケモ・サポート基金 理事長・院長 楠木 重範先生
患者会 岡本真弓氏
デモレーター 国立成育医療研究センター 総合診療部 緩和ケア科 小児がんセンターがん緩和ケア科診療部長 余谷 暢之先生

岡本氏の講演内容を受けて、緩和ケア、在宅医師等の専門家によるパネルディスカッションを行いました。

モデレーターの余谷先生より、まず「緩和ケア」の定義について、身体的、精神的、社会的、スピリチュアルの面のケア、そして家族に対してのケアというアプローチがある・・これをどう行なっていけばいいのか・・という議論の基本認識が語られました。
以下、パネリストの議論の要旨を列記します。
闘病生活をどのように過ごすことが子ども自身にとって良いのかということを本人、ご家族、関係者が第一に考え、その目的に向かって必要な条件を整えて行くという考え方が必要。
現在のデータとして83%が病院、13%が自宅での療養。
子どもの場合は、本当は慣れ親しんだ自宅での療養が好ましい。きょうだいとの接触も病院ではままならない。
小児在宅医が不足している中、どう在宅医療を実現するか。その問題として、成人の在宅に比べ、小児の在宅・・まして小児がんという希少疾患を患った子どもの在宅に関して、現在、標準的な治療のガイドライン的な手引きが無いと言う事がある。これを早急に作っていきたい。
そういった手引きがあれば、成人の在宅医が小児を担当することは、十分に可能である。
また、脳幹部グリオーマの療養を安楽に行なえるように症状をコントロールする方法の確立が必要。特に痙攣という症状に関する対応の確立が急務である。
きょうだいへの精神的支援の問題もある。突然、普通の家庭のそれまでの状況が一変する。きょうだいへの精神的負担やショックへのケアも同時に行なわれるべき。グリーフケアという観点も早い段階から導入していくべきだし、闘病を終えた家族へのケアも必要。
病院と家庭というものの中間にあるホスピスのような施設の整備も必要。チャイルドケモハウスのような施設の有用性も語られました。
告知の問題。患児に、ストレートに告知することは出来ない。子どもに分かる優しい言葉で病気の現状を伝える。これには正解はない。
多くの家族が、心ない言葉に傷ついた等のネガティブな経験をする。そもそも国民一般が、「がん」というものを正しく知らないため、誤解が生じる。社会的な啓蒙活動、いわゆる「がん教育」の必要性。
国では成育基本法を成立させ、小児の医療、保健、福祉を出産の段階から包括的に制度化していく事を考えている。その中で「がん教育」も位置づけていきたい。
地域格差が深刻。地方では満足のいく療養環境が無い場合がまだまだ多い。

以上のような「緩和ケア」という大きな課題に様々な視点からの議論が交わされ、第二部は終了しました。

ここで、お孫さんをこの病気で亡くされた経験をもとに啓蒙活動をされている、歌手 菅原洋一さんと息子さんの菅原偀介氏が多忙の中、駆けつけてくださり、歌を披露していただくというサプライズがありました。

◎ワークショップ会議
第一部、第二部の議論を受けて、参加者全員で現状の問題点について考える「ワークショップ会議」を行いました。
あらかじめ、「治療開発」と「緩和ケア」という2つのテーマから、参加者の皆様が話したいテーマを選択していたただき、
それぞれ412名のグループを作りました。テーマに沿った専門家が各一名ずつ各グループのモデレーターとなっていただき、運営委員からなるサブリーダーとともにグループ議論を進めていくという企画です。
どうしても、専門家からの情報を一方的に受け取るだけになりがちなこういったシンポジウム企画に、参加者側からの声を取り入れて行く事はできないか、また、誰もが当事者という意識を持っていただいて、この病気の問題を考えて行くことが大切であろうという主旨で行なわれました。
なかなか一般人が日常で語ることができないテーマであり、また少人数のグループという気安さもあり、それぞれ活発な議論が交わされました。

第三部 「第一部と第二部の課題と対策」
1、「治療・研究開発」を巡って
各グループのワークショップの結果の要約を提出していただき、モデレーターをお願いした原先生、中野先生のお二人に、論評を加えつつ、その結果を発表していただくという手順を取りました。
○治療研究の正しい信用できる情報の発信をどこかが行なうべきである。・・・専門家より精査された情報を患者会等で発信する
○治療法が無い中、放射線の再照射で一定の成果が出ているが、倫理的に行なえないとする施設・医療者もいる・・・実施している施設の情報を集約し、再照射の手引き的なものを作るべき。
○検体の絶対数が少ない。生検の困難さ・・・数少ないデータの集約が必要。
○開発費が少ない・・・希少疾患は開発費の回収ができず成り立たない。薬の開発を進める開発ルートや制度の確立。
○認知度の低さ・・・啓蒙活動を広げる。
○治療の選択肢がない・・・国際共同治験へ参加の道筋を作る。
・・・等の意見が出されました。

2、「緩和ケアの在り方」を巡って
同様に、モデレーターの浅原先生、天野先生より、各グループの議論の結果を発表していただきました。
○病院から在宅へつなげない・・・成育やあおぞら診療所のような優れたモデルケースを全国に普及させるべき。
○小児在宅医の不足・・・成人の医師でも小児を診れる医師をリストアッブする。
○小児在宅医療に関するスタンダードがない・・・小児、その中でも小児がんの知識のある医師はわずかしかいない。
小児がんの在宅治療に関する基本的な指針、医療の手引き的なものを作り普及させていく事で解決を図る。
○地域の連携・・・病院と訪問医、看護師の連携がとれていない。
○最初から在宅が必ずしも100%とるべき理想の選択というわけではないという観点も必要なのではないか。最終的にどういう療養がその子にとって大切かを考え、その方法として在宅や病院での療養があるべき。
○家族の悩みの持って行き場所がない・・・病気になったときに相談できる地域の窓口が必要。
○小児在宅医療・緩和ケアに関するガイドラインの策定・・・全国の医療者に広めて行く。

・・・以上のような活発な議論が各グループで交わされました。
今回交わされた様々な議論を、その場限りにせず、現状改善への貴重な参考意見として生かしていきたいと思います。

以上で今回のプログラムは終了しました。最後はクロージングセレモニーとして、高木委員長から開催支援者・協力者へのお礼と、次回の開催についての予告が語られました。

様々な観点からこの病気を取り巻く現実と、その解決法を探っていくための第一歩として、第二回シンポジウムは行なわれました。
勿論、一朝一夕には解決は難しいテーマばかりというのが、増々深く認識された感もある一方で、何とか現状を一つ一つ変えて行こう動きも見えてきました。何より、このDIPGという難攻不落の病気に立ち向かおうとする人々がこれだけ存在しているということ。それをあらためて確認できた意味は大きいと思います。
まだまだゴールは遠いのですが、当委員会としても、次回のシンポジウム開催を含め、諦めず粘り強い姿勢で、協力していだいた皆様とともに、多くの課題解決のために、今後も活動を継続していきたいと思っています。


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